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大好きな場所
中学生の時から、信貴山や金剛山といった大阪周辺の山々で自転車を担いで登り、乗って駆け降りていた。
途中で気持ちのいい場所を見つけたら、お湯を沸かしコーヒーを淹れクッキーを食べる。コーヒーの味がどうとかではなく、そんな気分がすごく好きだった。
実家の部屋の壁を板張りに改装したのもその頃。近所の材木屋さんで材料をゲット。もちろん車は運転できないので材木屋さんで自転車を借りた。今ではあまり見ることがなくなった重く大きなサイドカー付きの実用車(?)。サイドカー付き自転車はまっすぐ走るのも大変! でもその操縦も楽しかった。
その材(今から思えばプリント化粧合板)を自分の部屋の壁にグルッと張り巡らせる。完成すると、自分では山小屋にいるような気分だった。小さな電球色の明かりだけにして、本を読んだりして気分に浸っていた。
16歳で免許をとってからは、オフロードバイクで山道ばかり走っていた。
友達たちと平日の夕方であってもフライパンを背負って近郊の山に入り、何かを作って食べたり、テントとシュラフをリアシートに括り付け、気軽にあちこちに出かけた。どこに泊まるのかも決めなくていい自由。夕方になると、簡単な食料を手に入れて山に入っていく。朝になるとまた走り出す。17歳の夏休みは新日本海フェリーに乗って、憧れの北海道にも数週間行った。iPhoneなんてない時代、勘を働かせ道を選ぶ。分からなくなったら、通りすがりの人に尋ねてみる。知らない人と話すのが楽しかった。
そんな高校生の時から好きだった場所。大阪府の北の端にあるその山、ススキが靡く頂上からは遮るものは何もなく、ぐるっと360度見渡せる。ずっと遠くまで、山々がレイヤーのように重なり続いている。
「今から行こか? 夕日が沈むまでに着けるんちゃう?」と友達とぶっ飛ばして約1時間強。ギリギリ間に合って息を弾ませ見る空が綺麗だった。ある日は、テントを持って夕方遅くに到着。夜中に天気が急に荒れ狂い、小さなテントの中、友人2人で吹き飛ばされそうになるテントを必死に両手で支える。ドォーンと風同士がぶつかる音があることを知った。雷もあちこちで鳴っている。落ちて死んでしまうと思った。でもいつしか静かな朝を迎えることができた。
こんな“アウトドアライフ”好きゆえ、大人のアウトドア雑誌を憧れとともに読んでいた。
将来、何をして生きていくのかを考え続けていた当時、その中にあった長野の「松本技術専門校」の記事が目に留まった。「なんかいいんちゃう? 爽やか信州で家具作り、気持ちいい山もいっぱい!」すぐに見学に行き、進路は決まった。
そんなきっかけで始めた家具作りが、なんと40年近く経った今も続いている。
今でもこの景色を見に来ることがある。ほぼ何も変わらずそのままの同じ景色がそこにある。
自分自身も同じく何も変わっていない。好きな事をやり続けている。
TRUCK 黄瀬徳彦
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1997年に〈TRUCK〉を始めてから27年。
思いつくままに作りたい家具を作ってきた。
ここ数年思うこと、それは初期の頃のようにすっきりと飾り気のない家具を作りたいということ。
“STRIPPED DOWN, SIMPLE, CLEAN, PURE”
削ぎ落とし、シンプルに。さらに上質に。
“Less but better”
インダストリアルデザイナー、ディーター・ラムスの言葉に深く共感し、それを目指し たい。
そんな気持ちで新しい家具をデザインし試作を繰り返すなか、発売から20年以上経っ たテーブルや椅子を、仕上げ方やファブリックを少し置き換えるだけですごく新鮮に見
えることに気付く。そしてそれらが新しい気持ちの家具とすっと馴染むことが嬉しい。
27年の経験をもってビギナーのような好奇心で今一度、家具に向い合いたい。
この話を聞いたLAの親友、スティーブン・ケンがくれた言葉。
――何年も乗り続けてきたTruckをレストアするにあたり、味が出てきた見た目はその ままにして新しいエンジンを積む。新しいエンジンとはデザインに対しての新たな 興味、インスピレーション、パッション。でもそれは同じold beautiful Truck。気持ちよく走る。
このスティーブンの言葉から名付けた“Same Truck, New Engine”。
家具を作り始めた頃のPUREな気持ちで向かい合った〈S.T,N.E.〉をスタートします。
TRUCK 黄瀬徳彦
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